No.239 過去最大規模の盗難時代

2022年4月号掲載

銀行強盗は過去のもの

19世紀。お金の盗難といえば、銀行強盗が最上級だった。西部劇では、強面の連中が銃を片手に覆面姿で銀行を襲った。顔バレさえなければ容易にお金を盗むことができた。屈強なワルは銀行員を脅して奪って逃げるだけ。
20世紀。金庫が近代化し、それと共にセキュリティ技術(ドアの強固さと暗号化)が飛躍的に伸びた。映画に出てくる悪者は、屈強なだけでは金庫を開けられず、理系っぽいオタクを伴っていかなければ、壁は爆破できても金庫の暗号を破ることはできなかった。そして、21世紀。もう銀行の窓口で覆面つけて脅かしてくる悪党はいない。そもそも銀行に現金は少なくなった。時代はインターネット。やり取りの殆どは銀行窓口ではなく、ネットのやり取りになった。キャッシュレス社会は、銀行強盗を過去のものにした。
現在、世の中に現金貨幣は殆ど存在しない。ユーロ圏ではお金の10%しか現金は流通していない。残りは、デジタルナンバーとして銀行のパソコンが作っているのだ。
しかし、盗人はいつの時代もいるわけで、クレジットカードのスキミング被害は、世界で年間推定500兆円とも言われている。QRだって偽QRに差し替えられたら簡単に盗まれる。現代が、人類史上一番盗難が多い時代になってしまった。
本題は暗号通貨である。国が保証する法定通貨と違い民間が勝手に作ったのが暗号通貨。国が保証していない以上、どうやってこの通貨の信用を保証するのかというと、マイナーと呼ばれる市井の人たちがデジタルデータを認証することで信用がキープされている。

セキュリティが弱すぎる

そもそも仮想通貨には本質的な弱点がある。暗号通貨は、ブロックチェーンと呼ばれる複数のブロックで作られている。その通貨は台帳記入型といって、誰が過去に利用したかを刻印していくことで成り立っている。これが安心の源泉。しかし実際は、複数のブロックの一部だけしか過去を確認していない。なぜなら暗号通貨の流通歴史が長ければ長いほど、過去台帳の確認に時間がかかるからだ。通貨のくせに決済が遅い。買ってすぐに決済できない。これは致命的である。さらに言うと、ブロックの確認は一部のブロックを確認するだけなので、空マイニングが生じる危険性さえある。
だから、NFT作品を購入しても10分で決済できることもあれば、数時間かかることもある。人気のビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)を使わず、使い勝手の良い新しい暗号通貨を使えば良いという人もいるが、信用性、流通性を考えると問題があるし、そもそもブロックチェーンをベースにしている以上、過去の台帳を見にいく作業は無くならない。
暗号通貨の歴史は、盗難の歴史である。ハッカーとの戦いは、覆面野郎の数百倍も厳しい。時間と場所を選ばないという段階で人間の能力を超えた施策が必要となる。クレジットカードのスキミング被害同様に、暗号通貨もNFTもハッキング被害が拡大している。どんなに暗号化されたものでも、ネットを介して解除キーをやり取りする段階で、中間者に盗難される。ここ数カ月、「NFTマーケットプレイスOpenSeaで複数の盗難 フィッシング攻撃で被害額は2億円相当」(ITmedia NEWS)など、NFTの盗難事件が相次いでいる。

信用力が無くなっていく

暗号通貨には、あらかじめ発行限度がある。そうでないと価値の希薄化が起きる。国の法定通貨でさえ、無限に貨幣を作り続けたら物の価値が大混乱しインフレを引き起こし、国の信用がなくなり経済は破綻する。BTCには、2,100万枚が発行上限。4年ごとに新規発行され、2040年には新規発行がなくなる。そうなると信用の維持が難しくなるだろう。
これらの問題点を考えると、暗号通貨やそれを前提に成立しているN F Tのブームは限界がある。ただ、デジタルアートの分野は、半世紀以上前から「アルスエレクトロニカ」のようなアートフェスがあり、以前からアート価値がある。なので、デジタルアートがなくなることはない。しかしベースとなっているブロックチェーンの脆弱さを理解しておいた方が良い。

“お金”の多様性は今後、もっと必要になってくる。国の通貨も地域通貨もそれぞれに用途がある。我々人類は、暗号通貨が発明されたことで、自由に国を跨ぐ通貨の必要性を知ることができた。そのことが今後の法定通貨のデジタル化の動きを加速させたことは大きな功績だろう。
一方で、コロナ禍での世界的金余りから、株や債権への投資では物足りず、投資先として暗号通貨の価値が無秩序な需要に左右され乱高下したことは、信用面での不安をもたらす結果となっているのは残念だ。また、NFTがメタと組み合わされたことで、無数の巧妙な詐欺が急増している現状を憂慮している。ブロックチェーンに頼らない完全暗号の通貨の開発は急務である。

福田 淳 FUKUDA ATSUSHI
ブランド・コンサルタント
http://tabloid-007.com @fukudadesuga

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