No.237 伝統を守るために崩す

2022年2月号掲載

日本人は過去を捨てられない

先日、識者とM銀行のシステム障害がどうして直らないか? って話をした。
経営者のシステムに対する不理解が大きいが、その根底には経営判断の基軸をどこに持つかを適切に考えられなかったことに要因がある。
日本人は、過去を捨てられない。そして変化することに慣れていない。この2点がシステム障害を解決できなくさせた。
まず、識者の見立ては、歴史的に他行との合従連衡を繰り返し、何代にもわたって担当者が変わったシステムにおいて、どこまで数字を認識するかという決めごとが統一されていなかったのが大きい。近年の演算処理は小数点を無限に計算できるようになった。どこまで計算するかは時代時代の担当者(人)によって決められてきた。そのことによるズレが時間の経過と共に大きな誤差となっているのが障害の原因のひとつだ。
つまり、経営者はファイゲンバウム定数(ミッチェル・ファイゲンバウム博士が考案したカオス理論)を知らずとも、その経緯さえ知っていれば、ゼロからシステムを組む判断ができたはずだ。しかし、長年のシステム業者との付き合いや、周辺業者への忖度があり、ゼロから構築する経営判断ができない。年功序列の人事制度もそれを阻む。

変えていく力が試される2022年

一方、先日の世界最大のテクノロジー見本市「CES」で独メルセデス・ベンツ社がスクラッチ(白紙)から18カ月で作ったEV車(ビジョンEQXX)が発表された。歴史あるブランド企業でもスクラッチから開発させる経営判断は見事という他ない。
ブランドを守るためには、ブランドを崩さなければならない。
これができる経営は長生きする。ルイ・ヴィトンは、マーク・ジェイコブスを雇い、スプラウスや村上隆を起用して伝統的なデザインを破壊した。だから、今でも生き生きとしたブランドとして存在している。
よくある会議風景の話。上司が部下に画期的なアイデアを持ち寄るよう指示。社員は一生懸命アイデアを練り、会議に臨む。素晴らしいと思うアイデアを披露するが、上司は「このアイデアで成功した事例はあるのか?」と聞いてくる。その段階で画期的ではなくなるし、前例主義ではヒットしたとしても前例を超えられない。自明のことである。また、前例のない画期的なアイデアを提案すると「こんな前例も分析データもないアイデアをどうやって社長に説明するのか?」と問いただされ、このアイデアも撃沈する。
やれやれ、どのアイデアを出したって、結局通らないのだ。

素晴らしいアイデアは、信頼から成り立つ。挑戦とは前例のないことを平気でやってのける力を試すものだ。確かに大抵のアイデアは討死する。だからこそ、挑戦をやめない姿勢が大事なのだ。
前例主義は、変化を阻む。変えていく力が試されるのが、アフターコロナの2022年となる。

福田 淳 FUKUDA ATSUSHI
ブランド・コンサルタント
http://tabloid-007.com @fukudadesuga

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