舘盛和 氏 多摩ケーブルネットワーク(株)


苦しさから学んだ経営哲学と高収益を生み出す方法
地域に根付いた企業に成長するまでには、大変なご苦労があったと。

舘:2000年頃まではバブル期で夢を見ていられたのですが、開局後10年間は赤字が続き、地獄でしたね(笑)。最高20億の債務超過で、40億円くらい借金がありました。景気の急速な悪化で金融機関が破綻して、銀行は貸し渋り。当社は第三セクターではないので、国からの補助金もない。
銀行から借金するしかないんです。株主は中小規模の地場産業ばかりですから、増資も望めませんでした。ただその頃から少しずつ利益が出るようになりました。段々と繰越欠損を減らしていき欠損が10億になった時大きな一手をうちました。無償減資です。9億円の資本金を一気に4,500万にしました。95%の減資です。その減資差益と当期利益で一気に債務超過と繰越欠損を解消しました。そして翌期から配当開始しました。
さらに、その飛躍を加速させたのがインターネットの普及です。もうひとつは“多摩ケーブルネットワークに加入すれば、地域のニュースが毎日見られる”と言われるようになるほど、当社が地域に浸透したことです。
近年は新聞も合理化されて、多摩版の紙面ですら地域の小さなニュースはあまり扱いませんから、生活圏の情報は重宝されます。今や「コミチャンだけ見られればいい」という声もあるほどです。ここ10年で財務も健全化し、高収益を生み出せるようになりました。苦節の時代を経験して得た経営哲学は、「企業は稼ぎ、キャッシュを握って投資を続けなければいけないこと」、そして「ブランド価値を高めて顧客を増やし、質の高い収益構造を構築すること」です。多くのことを学びました。

サービス面で工夫されていることは。

舘:テレビとインターネットのサービスは、それぞれ2コースしか設けていません。セット割引はありますが、料金設定が高めでARPUが高いのが特徴です。コミチャンは有料サービスに加入しないと視聴できません。
「本当に使いたい」方だけが、納得して加入してくださるので解約率は0.5%以下。これが地獄の10年を味わって、たどり着いた質の高い収益構造です。
また、当社はフリーダイヤルの自動音声案内やコールセンターは設けておらず、年中無休、お客様からの電話は全て社員が対応しています。必要に応じて訪問もしますが、このサポート体制は高い評価をいただいています。

大手通信事業者は脅威ではありませんか。

舘:光回線は「1ギガ」と言われますが、あくまでベストエフォートです。1人で使えば高速が担保されますが、家族で同時に使うと遅くなるので、それが問題視されています。当社は複数ノードで切り分ける仕組みで対処しています。大手通信事業者が当社と同等のサービスを提供しようとすれば、コスト高で割に合わないので、競合することはないとみています。

最後に今後の展望と、次世代を担う社員の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

舘:5G時代の到来に備え、高クオリティのサービスでブランド力を高めてきました。地域BWAの認可も得たので、無線・有線のインフラが揃っています。情報化時代、地域に根差して最先端技術を活用すれば、面白いことができるのではと思っています。社員に向けては…好きにやって欲しいです。「自主的に何かする」のが当社の風土ですから。私が口出ししなくても、これまでも面白いことを次々と考え、行動してくれていますので、引き続き見守っていきたいと思います。

photo by 越間有紀子


PROFILE 舘 盛和 TACHI MORIKAZU
1947年生まれ。72年ヤクルト本社入社、80年トヨタビスタ多摩入社。83年多摩ケーブルネットワーク設立発起人。87年多摩ケーブルネットワーク開局。90年代表取締役専務。2000年代表取締役社長、現在に至る。2010年~2016年 青梅商工会議所会頭(現・名誉会頭)。