荻野喜美雄 氏 入間ケーブルテレビ(株)


「この街に必要なことなら何でもやる」をモットーに、現在では「婚活パーティ」まで主催している。その根底には、入間市の人口増加に貢献したいという想いがある。
荻野:地域に密着しているのがケーブルテレビですから。「この街に必要なことなら何でもやる」をモットーに、当社のラウンジスペースも市民に開放し、2014年から「婚活パーティ」を開催しています。毎回平均30人の男女が参加していて、4~5組のカップルが成立しているのですが、たくさんの応募があって今や大人気のイベントになっています。当社にとっては、人口や世帯数の減少は直接的な打撃です。だから少しでも人口を増やしたい。市外からの転入者を待つだけでなく、人口を増やす策がないかと考えました。市民同士が結婚して、この地で家族を築いてくれたらいい。そういう狙いもあって、女子自衛官と一般男性、男性自衛官と一般女性、バツイチ同士など、需要が高いテーマを当社の社員が毎回企画しています。当日は、社員と当社グループFM局のパーソナリティが司会を務め、イベントを盛り上げています。
毎年春になると、敷地内には見事な桜が咲き誇り、観桜会が催される。多くの来賓をもてなすのが、新入社員の役割だ。入社直後、いきなり多くの人々とコミュニケーションを取る機会に恵まれるのも、社会人としての大きな成長につながっている。
荻野:テントを張って、盛大に観桜会を催していますが、社外から多くの方々がお見えになります。設営係は、4月に入社したばかりの新入社員です。4月の入社式を終えた翌日から研修、数日後にテントを立てて、観桜会当日は新入社員が撮影係を務めます。すぐ翌週は、市内のゴルフ大会の接待も新人に任せたりして、なかなか忙しいですよ。そういう仕事にやり甲斐を持ってくれているのか、当社は辞める人がとても少ないのです。
入間ケーブルテレビの交流は、市内だけにとどまらない。入間市とドイツ・ヴォルフラーツハウゼン市とは30年以上にわたり姉妹都市の関係にあり、同社も市民交流に大きく貢献してきた。このほか、中国・奉化区、国内では愛媛県新居浜市の金子地区とも活発な交流が続いている。
荻野:姉妹都市といっても、当社が関わってきたのは、市の上層部や特定の人たちだけが行き来するような、名ばかりの連携ではありません。入間市とヴォルフラーツハウゼン市の交流は、市民レベルで長く続いています。私もこれまで、日本の青少年団を6回ドイツに引率していきました。先日はドイツから当社に青少年の視察団をお迎えしました。また中国・奉化区も入間市の友好都市で、私は16回訪中しました。国内では、愛媛県新居浜市の金子地区とも30年以上お付き合いがあって、頻繁に行き来しています。鎌倉時代の武将、金子十郎家忠のゆかりの地が入間市金子地区で、その子孫が移り住んでできたのが、新居浜市の金子地区なのです。東京ドームで毎年開催される「ふるさと祭り」には、新居浜名物の「太鼓祭り」が出演しますが、そういう所縁があって、東京ドームの取材には当社が出向きます。太鼓の担ぎ手としても、入間市の金子地区から約200名が動員されています。
「思いついたらすぐ動きたくなる」。自身が語る通り、荻野氏は阪神・淡路大震災(1995年1月)の発生後にも持ち前の行動力を発揮し、コミュニティFM局を設立した。そして東日本大震災(2011年3月)を経験。経験を蓄積した現在、災害対策には万全を期している。
荻野:阪神・淡路大震災の発生直後、現地を視察に訪れたのです。電柱が倒壊した惨劇をこの目で見て、ケーブルテレビの限界を感じました。もし伝送路が壊れたら、市民に情報(番組)を届けられなくなってしまう。帰りの新幹線で「コミュニティFM局をつくろう」という思いに突き動かされ、すぐに当時の市長に相談に行き、賛同を得ました。それで入間市が筆頭株主、市民から株主を募集し、入間ケーブルテレビも出資して、翌96年3月に(株)エフエム茶笛(当時エフエム入間放送)を設立しました。FM茶笛(チャッピー)では、普段はエンターテイメントや身近な情報を流していますが、一番の目的は万一の事態にお知らせする災害情報を聞いてもらうこと。そのときに備えて、「市民にFM放送を聴く習慣を身につけておいていただきたい」という想いがあります。
最近では、災害時のコミュニティ放送の存在意義が広く認知されるようになりました。2011年に東日本大震災が発生したとき、私は(一社)日本コミュニティ放送協会(JCBA)の会長だったので、被災地に何度も出向き、2カ月で29局の臨時災害放送局を開設しました。現地の惨状を目の当たりにして精神的にかなり落ち込みました。そういう経験もあって、当社では移動放送設備を整備しています。近隣には放送局がないので、大きな災害が発生したら現場に車で放送設備を運搬します。車両から10mのアンテナを伸ばして、放送を開始できる装置です。また、倉庫には簡易トイレなどの生活用品や食料品を備蓄していて、近隣の方々にも10日分くらいは配布できるような状態です。また、当社では地下にヘッドエンドを設置しているのですが、社屋は強度な耐震構造を備えていますし、市内の伝送路は細かくループ化して、品質維持を図っています。