No.209 個人情報と与信の新しい関係

2019年10月号掲載

国家が個人情報をコントロールすることに

中国で個人のS N S活動が銀行の貸し出し審査項目になっているという話を聞いたことがある人はいるだろうか。
中国アリババ系のアント・フィナンシャルが提供する芝麻信用(セサミクレジット)は、従来の与信(年齢、学歴、職歴、資産)に加え、人間関係やEC、ITサービス利用履歴を加味し、350-950点でスコアリングする。その結果、同社の個人向けローン貸し倒れ率は1%未満となった。
結局、中国の信用スコアは「百行征信(バイハン・クレジット/略称:信聯=シェンリン)」という企業に政府により一本化された。
シェンリン(信聯)の株主構成は、中国政府系の業界団体である「中国インターネット金融協会」が36%を保有し、残りの64%を中国人民銀行から信用調査業務の施行を許可された8社が8%ずつ保有する形になっている。ちなみに、8社の中には、アリババ系列の「芝麻信用」やテンセント系列の「騰訊征信」も含まれている。つまり、政府を中心とした信用調査機関のプラットフォーム的な立ち位置の企業なのだ。最初は民営でやっていた個人情報を国家がコントロールすることになったわけだ。

中国だけでなく米国もが追随しはじめた

構造としては怖いのだが、ユーザーは喜んで個人情報を提供している。それはショッピングで有利になるからだ。インターネット時代の買い物は、できるだけ自分の属性を出さないと得しない。だから、自然とシェンリンに情報が集まる。
あるジャーナリストが政府を非難するような記事を書いたら、途端に海外渡航もできなくなり、娘の進学もグレードの高い学校に申請できなくなった。ドラマ『ブラックミラー』のような悪夢の世界が現実になったのだ。一方で、この仕組みのおかげで中国人のマナーが良くなったという人もいる。しかし、いろんなやんちゃがいて社会は成り立っているのではないだろうか。良い子ちゃんが勢揃いさせられる社会を、果たして豊かな社会と言って良いのだろうか。
そして、これは中国だけの話ではなくなった。
2019年5月31日、ほぼすべての米国ビザ申請者は、通常の申請プロセスとして、申請者が過去5年間に使用したソーシャルメディアのユーザー名、これまでに使ったすべての電子メールアドレス、および電話番号を提出することを米国務省が施行しはじめた。最大1,500万人もの渡航者に影響を与えるという。自国をテロで守るという以上に、移民を減らす狙いもあるようだ。

モラルとは社会が判断するイシュー

世界の主要国が自国優先をあげ分断していくのは、我々の未来にとって決してプラスに働かない。
一方で、信用スコアをビジネスに活用しようとする動きもある。飲食店予約サイト「テーブルチェック」はユーザー履歴からスコアを算出し、加盟店に開示。点数が高いと予約を融通してくれるという。これは素晴らしいなぁ。
つまり、社会規範の持ちようなんだと思う。荒くれ者の定義を社会の代わりに国が代行しようとするからおかしくなるので、モラルは国から押し付けられるものではなく、人々が構成している社会が、その時々のバランスで判断すべきイシューなのだと思う。


福田 淳 FUKUDA ATSUSHI
ブランド・コンサルタント
http://tabloid-007.com @fukudadesuga

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