No.207 ルールチェンジ

2019年8月号掲載

江戸時代の女衒の世界

わたしのブログ記事(http://spdy.jp/news/s1490/)がバズっている。
先般、ジャニーズ事務所へ公正取引委員会が注意喚起したというニュースに触発され「エンタメの未来」という投稿をした。わたしが携わっているタレントも長い間に渡って、テレビ業界からいじめにあっている。そのことに触れた途端、吉本興業の問題が起き、あっという間に世論はフェアな方向に動き出した。しかし、世論と企業がつねにリンクして動くはずもなく、今後どうなるのか不透明な状況である。さて、日本の芸能界の何が問題なのか。
ひとつ目は、タレントの移籍の自由がない。映画『ザ・エージェント』(トム・クルーズ主演)という作品があった。大手タレントエージェントに勤めていたトムがひょんなことから会社を辞めさせられ、落ちぶれたスポーツ選手のみかかえる一人エージェント業をはじめる。わたしは、長年ハリウッドビジネスにかかわってきた。この映画の製作会社であるハリウッドメジャースタジオ「コロンビア・ピクチャーズ」での長年の経験からいって、米国のエンタメビジネスは非常に透明性が高くフェアで競争原理が働いている。
タレント(コンテンツ)に力がある。タレントが売れてくると、多額の契約金でそのタレントを引き抜こうとする会社がでてくる。そのタレントを守るために現事務所も頑張る。そんな構図だ。もちろん、多数のタレントを抱えている事務所が強い、というのはあれど、移籍を邪魔することはできない。日本では、ヒットをだしたタレントの円満な移籍はまずない。事務所のメンタリティとしては、「ヒットをだして、いま暮らしているは誰のおかげだ」という極めて前近代的な観念から移籍をさせない。江戸時代の女衒の世界である。令和時代がきたというのに!

グローバルな視点を持って!

2つ目は、労務問題。いわゆる奴隷契約。“取り分が1割”とか、“月給5万円”など、タレントは信じられない低賃金で働かされている。契約書もなく、契約金額がタレントに教えられることはない。闇営業はタレント事務所の方なのである。生活に追い詰められた芸人がどんな仕事も引き受けてしまう背景には、そういうあこぎな背景があることを忘れてはならない。
また、撮影現場もハリウッドや香港と比較して信じられないほど、過酷な状況である。十分に準備していても、無能な製作者によって、撮影は深夜、明け方まで行われることは常態化している。土日の休みもない。ハリウッドのように組合(ユニオン)がないので、際限なく働かされる。世界中のエンタメで一番国際性がない日本製の映画・ドラマの製作者は何故国際基準を勉強し、グローバルな視点を持ち得ないのか見識が問われる。

エンタメ貧乏な理由

3つ目は、何故に日本のエンタメだけが貧乏なのか、という背景にある。そこには、テレビ局の成り立ちに関係があると思っている。アメリカも中国もテレビ市場は、シンジケーションといって独立した地方局が無数にある。ひとつの作品がネットワーク局(CBS、ABC、NBC、FOX)でヒットすると、延々と地方局(シンジケーション)での放映につながり、出演タレントはロイヤリティとして幾何級数的にギャラが支払われるわけだ。これこそが、フェアで透明なマーケットと思う。
一方、日本では田中角栄が郵政大臣(現在の総務大臣)になったときに、テレビ局の免許を大量交付し、新聞社を背景に巨大なネットワークを構築した。民放キー局が番組を買うと、ついた広告費の配分も含め、系列の地方局は枠の提供と引き換えに、何もせずに高給をもらう仕組みになっている。自社制作は、夕方の地元ニュースくらいだろう。詳しくは猪瀬直樹の「欲望のメディア」を読んでみてほしい。つまり、キー局による中央集権構造(セントラルバイイング)が、120局あまりのテレビ局間の競争を奪い、コンテンツ、タレントの長期デフレ化を生んでいる。
ちなみに、日本のトップ女優のテレビドラマ1本あたりの最高ギャラは400万円。中国のファン・ビンビンさんは5,000万円である。人口比というだけでない。ファン・ビンビンさんのこのギャラはキー局からだけのギャラでシンジケーションは別にあとから支払われる。


福田 淳 FUKUDA ATSUSHI
ブランド・コンサルタント
http://tabloid-007.com @fukudadesuga

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