No.201 メディアの真贋を疑う時代

2019年2月号掲載

実際の会見映像を誰も見ていないの?

トランプが「フェイク、フェイク」と言えば言うほど、ニュースの信憑性が増してしまう時代だ。どのニュースが本当で嘘かさっぱりわからなくなった。
SNSの台頭によって、個人が自由に意見を発信できる。だから、余計に嘘も本当も増幅されて人々に届けられてしまう。個人が全くこのようなツールを持っていない日本の戦時中のような情報統制下を思い返すに、本当に豊かな時代になったと思う。だがしかし、一方で、前よりも真実が伝わりにくいということが起きている。
世界トップのテニスプレイヤー大坂なおみをめぐる騒動にもそれを感じた。
騒動となったCMは、大手食品メーカーが「新テニスの王子様」とコラボしたもの。1月11日に第1弾、14日に第2弾が公開された。
CM内に登場する大坂選手がアニメ化されたキャラクターの肌の色が、実際よりも「白く」描かれていたことから、「ホワイトウォッシング」だと国内外から批判の声が上がった。これを受けてクライアントは1月23日、CMの公開中止を発表。
広報担当者はAP通信の取材に、CMは大坂の事務所の許可を得た上で公開したものだったが、その後事務所側から取り下げるよう依頼があったと答えた。
このことで大坂が記者会見をした。いつもの通り英語で。
大坂選手は「I’m tan. It’s prettyobvious(. 私は小麦色、それは明らかですよね)」「I get why people wouldbe upset about it(. このことでみんなが怒ったりしてる理由はわかります)」と答えた。
だが、時事通信は大坂選手の発言を「なぜ騒いでいるのか分からない」と和訳して報じた。“get”が“わかる”って翻訳は中学生でもできる。会見映像を確認しても、こんな発言(和訳された報道内容)はしていない。時事通信の記事はYahoo!ニュースのトップページにも掲載され、朝日新聞も報じた。ここに出てくる大手マスコミの誰も実際の会見映像を確認しなかったのだろうか? しなかったんだろうなぁ。朝日新聞は多くの批判を受けて後日に訂正を発表した。

自分で調べ、考え、推論し、実証する力が必要

ここで考えられる恐ろしいことは何かと言うと、大坂選手が言っている通り。
“So I don’t think they did it onpurpose to be like whitewashingor anything. But I defi nitely thinkthat the next time that they try toportray me or something, I feellike they should talk to me aboutit.”
「彼らが意図的に白人っぽく見せようと思ったわけではないでしょうが、今後は絶対私に相談して進めて欲しいです」。
クライアントもその下請け事務所も、マスコミも誰も彼女の発言をちゃんと咀嚼していなかった事実だ。ただでさえ、意図的に事実が歪められ、間違った社会へ誘導されるような時代に、こんな簡単な事実の確認さえできない機能不全のマスコミ。信じてはいけない。いやむしろ、自分で調べ、考え、推論し、それを実証できる能力がないと21世紀に生きる者として正しい情報を得ることができないとさえ言える。
クライアントは、単に本人に謝ってCM放映を取り下げるのではなく、どこでこのようなクリエイティブコントロールの不備が起きたのか調査し、二度とこのようなことがないように世間に知らしめるべきなのではないか。それこそがクライアントが失敗から学んで、今後も愛されるブランドであり続けることができる唯一の方法と思う。

【お詫びと訂正】
『考えるメディア』Vol.200(2019年1月号)の最初の小見出しに誤りがありました。上位解脱とあるのは、“上意下達”の誤りです。ここに訂正し、お詫び致します(編集部)

福田 淳 FUKUDA ATSUSHI
ブランド・コンサルタント
http://tabloid-007.com @fukudadesuga

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